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採用した医師が、自費診療で契約を取れない——『営業が下手』は誤診です

「半年前に大学病院から優秀な医師を採用した。手技は素晴らしく評判もいい。なのに契約に至らない」――こうしたご相談を、自費診療の院長先生から年に数回いただきます。原因は医師個人の能力や姿勢ではなく、前職環境が強化してきた行動様式と、自費診療が要求する行動様式の違いです。今回はその構造と、経営者が取れる現実的な3つの打ち手を整理します。

採用した医師が、自費診療で契約を取れない——『営業が下手』は誤診です

クリニックのWEBやAI活用を支援しているメディカルサインの中村です。

「半年前に大学病院から、評判のいい医師を採用しました。手技は申し分なく、患者さんからも『丁寧に診てもらえた』と言われます。それなのに、カウンセリングまで進んだ患者さんが、契約に至らない。月の成約率で見ると、既存の医師の半分以下です」

ある美容クリニックの院長先生から、こうしたご相談をいただきました。同じ構造の声は、自費を扱う院から年に数回いただきます。美容医療、再生医療、自由診療。診療科目を問わず、起きていることはほぼ同じです。

院長先生は困惑されます。優秀な経歴、誠実な人柄、丁寧な説明。採用基準のどこを取っても評価できる医師が、なぜ契約に至らないのか。

結論から申し上げます。これは医師個人の能力や姿勢の問題ではありません。前職環境が強化してきた行動様式と、自費診療が要求する行動様式が、根本から食い違っているだけです。今回はその構造をお伝えします。

「営業が下手」は誤診である

院長先生が最初に立てる仮説は、たいてい3つに分かれます。本人のやる気不足、トーク練習の不足、性格的な向き不向き。

この3つは、ほぼ的を外しています。

やる気は十分です。大学病院から自費の世界に出てきた医師の多くは、新しい環境で結果を出したいと強く思っています。トーク練習も、ロープレを重ねれば一定の改善は出ます。性格についても、引っ込み思案な医師が成約を取れず、押しの強い医師が取れるかと言えば、現場ではむしろ逆のケースをよく見ます。

問題は、もっと手前にあります。医師が10〜20年かけて適応してきた「医師としてのコミュニケーション」そのものが、自費診療の現場では機能しない。それだけの話です。

保険診療という環境が強化してきたもの

大学病院や保険診療の医局で訓練を受けた医師は、次の5つの条件下で「優秀さ」を磨いてきています。

  • 患者さんは紹介や近接性で来院する。集客という概念が業務に存在しない。
  • 価格交渉が存在しない。診療報酬は保険が支払う。患者さんと値段の話をすることはない。
  • 評価軸は臨床アウトカムである。誤診の少なさ、術後の経過、症例数、論文。
  • 患者さんとのコミュニケーションは「説明と同意(インフォームド・コンセント)」で完結する。選択肢を提示し、リスクを伝え、署名をもらえれば医師の役割は終わる。
  • 「契約を取る」「成約する」という行為が、そもそも業務に含まれない。

この環境で10年も訓練を積めば、医師は徹底的にこの出力に最適化されます。価格に踏み込まない、選択は患者さんに委ねる、医学的に正しい説明を尽くす。これは保険診療の現場では「優秀な医師」の振る舞いそのものです。

自費診療という環境が要求するもの

ところが、自費診療の現場は逆の出力を要求します。

  • 患者さんは3〜5院を比較検討した上でカウンセリングに来ている。診療ではなく、選定の途中段階で会っている。
  • 患者さんは医学的合理性ではなく、感情で意思決定する。「不安がなくなったか」「この先生に任せていいと思えたか」が判断軸である。
  • 価格は心理的障壁として最前面にある。50万円、100万円の意思決定を、その場で患者さんに迫る場面が日常的に発生する。
  • カウンセリングは実質的にセールスである。情報提供だけで終わらせれば、患者さんは「もう少し考えます」と帰り、別の院で契約する。
  • 評価軸は成約率とLTV(顧客生涯価値)である。臨床アウトカムは前提条件であって、評価指標ではない。

同じ「医師として人と話す」行為でも、求められる出力が根本から違います。価格に踏み込まない医師は、自費の現場では「踏み込まない不親切な医師」になります。選択を患者さんに委ねる医師は、自費の現場では「決められない医師」と受け取られます。保険診療で評価されてきた振る舞いが、そのまま自費では減点要素に反転する構造です。

人は環境に最適化される

これは医師に限った話ではありません。

長く営業職を続けた方は、月末になると無意識に追い込みの挙動を取ります。KPIを設定された途端、開発者の書くコードの粒度が変わります。人は誰でも、自分が長く置かれた環境の評価軸に対して、行動を最適化していきます。意識の問題ではなく、神経系のレベルで適応が進む話です。

そして、優秀であればあるほど、前の環境に深く適応しています。大学病院で高く評価されてきた医師ほど、保険診療のコミュニケーション様式が体に染み込んでいる。自費の現場でうまくいかないのは、ある意味、優秀さの裏返しでもあります。

つまり「成約できない医師」は、「能力が低い医師」ではなく、「別の評価軸で最適化されてきた医師」です。診断を誤ると、対策も誤ります。

経営者が取れる3つの打ち手

ここから先は、構造を踏まえた現実的な対応の話です。打ち手は大きく3つに分かれます。

① 医師に営業研修を課す

最も直接的な対応です。外部のセールス研修、ロープレ、トークスクリプトの整備。短期的に成約率が動くケースもあります。

ただし、現実には抵抗が大きい打ち手でもあります。医師は「営業を学びに来たわけではない」というキャリア観を持っていることが多く、研修そのものへの心理的反発が発生します。仮に受講しても、長年染み込んだ評価軸を上書きするには年単位の時間がかかります。受講直後の改善は出ても、半年後の定着率は率直に言って高くありません。

② カウンセラーを介在させる

医師の前段に、専任のカウンセラーを置く方法です。価格説明、不安の解消、比較検討の整理をカウンセラーが担い、医師は医学的説明と最終確認に集中する。多くの大手美容クリニックがこの構造を採用しています。

効果は出ますが、コストと教育負担は重いです。優秀なカウンセラーの採用は、医師の採用よりむずかしい局面さえあります。さらに2025年8月の厚労省通知以降、カウンセラーが治療法そのものを提案する運用は医師法第17条違反として整理されたため、業務範囲の線引きも慎重に設計する必要があります(こちらのコラムで詳述しています)。

③ Webコンテンツに事前カウンセリング機能を持たせる

3つ目は、来院前のWebサイト・LINE・メールで、価格・症例・不安・他院比較をすべて処理してしまう方法です。

患者さんが院に来た時点で、「いくらなのか」「自分に合うのか」「他院と比べてどうか」「副作用やダウンタイムはどうか」がすべて解決済みであれば、カウンセリングは確認の場になります。医師に求められる出力は、保険診療で慣れ親しんだ「説明と同意」に近づき、訓練を上書きしなくても成約に至りやすくなります。

ただしこれも万能ではありません。Webコンテンツの質と量の積み上げが必要で、設計から運用までで半年〜1年は見ておく必要があります。短期での効きは弱い打ち手です。

3つの打ち手はそれぞれ得手不得手があり、貴院の規模・診療科目・既存の体制によって、効く順序は変わります。①②③のどれを単独で取るかというより、組み合わせ方を設計する話だと捉えていただくのが現実的です。

結論——医師に「変われ」と言う前に、変わらなくても成約する仕組みを作る

成約率を上げるとき、選択肢は最終的に2つに収束します。医師に変わってもらうか、医師が変わらなくても成約する仕組みを作るか。

前者は、保険診療で20年訓練された行動様式を、半年で書き換えてくださいとお願いする話です。優秀な医師であればあるほど、難しさは増します。

後者は、医師の行動を変えずに、患者さんが来院した時点での状態のほうを変える話です。比較検討も、価格の心理的障壁も、不安も、すべて来院前のWebコンテンツで処理しておく。医師は、自分が訓練を積んできた「説明と同意」だけを行えばよくなります。

Webサイトは長らく「集患装置」として捉えられてきましたが、本質的にはもう一段先の役割を担えます。営業の前工程を肩代わりする装置として再設計する余地は、多くの自費クリニックでまだ大きく残っています。

採用した医師が成約に至らないとき、責めるべきは医師個人ではなく、医師が走らされている設計のほうです。設計を変える余地は、医師を変える余地よりも、たいてい大きいと感じます。


「採用した医師の成約率が伸びない」「カウンセリング設計を見直したい」と感じられた院長先生は、お問い合わせよりお気軽にご相談ください。


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  1. 採用した医師が、自費診療で契約を取れない——『営業が下手』は誤診です (現象起点。「医師 採用 成約しない」など、悩みベースの検索を想定)

  2. 大学病院出身の医師がカウンセリングで成約しないのは、能力ではなく『環境最適化』の問題である (構造起点。「医師 カウンセリング コツ」「医師 売れない 理由」などへの解釈提示)

  3. 医師に営業研修を課す前に——自費クリニックの成約率を動かす3つの打ち手 (解決策起点。「クリニック 成約率 改善」「美容クリニック カウンセリング 改善」などの能動的検索を想定)

中村崇雄

中村崇雄メディカルサイン代表

20代をWeb業界で、30代を美容クリニックの広報・マーケティング担当として過ごす。2023年にメディカルサインを創業し、「Webと、AIに詳しい人が、院内に一人いる」状態を月額で実現するパートナーとして、医療現場のとなりで伴走している。

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