ステルスマーケティング(ステマ)とは、広告であることを隠し、消費者に宣伝と気づかれないようにする手法です。SNSの普及とともに口コミやレビューの影響力が増しており、美容医療業界においても口コミの内容や投稿数が集客・売上に直結する時代となっています。そのため、悪意がなくても「知らず知らずのうちにステルスマーケティングに該当するプロモーションをしてしまっていた」というケースも多発しており、注意が必要です。
2023年10月には消費者庁がステルスマーケティングに関する新たな規制を導入し、違反した事業者には措置命令を出すようになりました。本記事では、実際の事例をもとに、ステルスマーケティングの危険性や美容クリニックが守るべきポイントを詳しく解説し、適正な広告手法についても提案します。
ステルスマーケティングの定義と違法となる理由
ステルスマーケティングとは、広告であることを明示せず、口コミやインフルエンサーの投稿を利用して商品やサービスを宣伝する手法です。このような行為が問題視される主な理由は以下の通りです。
- 消費者の誤認を招く:通常の広告であれば消費者は宣伝であると認識できますが、ステマは「第三者の意見」と誤解されやすく、消費者に不当な影響を与える可能性があります。
- 口コミの信頼性が低下する:不正な手法によって評価が操作されると、本来のサービスの質とは関係なく評価が左右され、結果として消費者の信頼を失うことになります。
- 景品表示法違反のリスク:2023年10月に施行されたステマ規制では、事業者が関与した宣伝であるにもかかわらず「広告」と明記しない場合、景品表示法違反となり、措置命令の対象となります。
また、日本形成外科学会や日本美容外科学会などの学会でもステルスマーケティングの問題について注意喚起が行われています。さらに、厚生労働省は医療広告ガイドラインを策定し、宣伝方法の健全化を推進しています。しかし、これらのガイドラインやステマ規制の知識が不十分な医師やクリニックオーナーもまだ多く、適切な広告手法を理解することが求められています。
具体的な違反事例とその問題点
医療法人社団スマイルスクエアの事例
東京都世田谷区の「スマイル+さくらい歯列矯正歯科二子玉川」では、口コミで高評価(星5)をつけることを条件に、5000円の割引または金券を提供していました。この結果、Googleマップの評価が急上昇し、消費者庁の調査によって9件の口コミが事業者の関与によるものと認定されました。
消費者庁は「消費者が事業者の関与を判別できない」ことを問題視し、景品表示法違反として措置命令を発出。ステルスマーケティングに該当する行為は、結果としてブランドイメージを損ねるリスクがあることが明らかになりました。
マチノマ大森内科クリニックの事例
東京都大田区の「マチノマ大森内科クリニック」では、インフルエンザワクチン接種者に対し、Googleマップの口コミで星5または4をつけるよう依頼し、見返りとして550円の割引を提供していました。
消費者庁の調査では、口コミ依頼前の評価は「星1が9割」だったにも関わらず、依頼後は「星5が9割」に急変。短期間で異常な増加が見られたことから、消費者庁はステルスマーケティングと判断し、景品表示法違反で措置命令を出しました。
大正製薬の事例
大手製薬会社である大正製薬も、ステルスマーケティングで措置命令を受けています。サプリメント「NMN taisho」をPRするため、インフルエンサーが投稿した内容を「PR」の表記なしで自社サイトに掲載しました。
企業がインフルエンサーとタイアップすること自体は問題ありませんが、消費者にとって「広告であるかどうかを正しく認識できるか」が重要視されます。企業規模に関係なく、透明性の確保が求められる時代になっていることが示される事例となりました。
美容クリニックが気を付けるべきポイント
口コミ投稿の管理
割引や特典を提供するから、口コミを投稿してと促すのは違法リスクがあります。また、異常な口コミ増加は不自然と判断され、調査の対象になる可能性があります。
リスクを回避するための参考例:・「施術を受けた感想をぜひお聞かせください!」と自主的な口コミ投稿を促す。
・医療行為に100%成功がないことは消費者も分かっています。悪い口コミにも丁寧に返信をすることでマイナスイメージを抑えることができます。
インフルエンサーマーケティングの適正な運用
PR投稿は必ず「広告」「PR」などの表記を入れる必要があります。公式サイトやSNSに掲載する場合も、PR表記を明示することが重要です。
リスクを回避するための参考例・美容クリニックがインフルエンサーとタイアップする際、「#PR」や「広告」表記を必ず入れる契約を交わす。
・消費者庁の指針をマーケティングに関わる医師・スタッフがよく理解しながら運用する。
景品表示法・広告ガイドラインを遵守する
厚労省による「医療広告ガイドライン」をはじめ、景表法や薬機法などを守るようにしましょう。
リスクを回避するための参考例・キャンペーン告知に「この特典は口コミ投稿の有無に関わらず、全てのお客様が対象です」と明記する。
・厚生労働省・消費者庁のガイドラインをチェックし、法律に違反しない適切な広告表現を採用する。
まとめ
ステルスマーケティングは短期的な集客効果はあるものの、違反が発覚すればブランドの信用を大きく損ないます。特に美容クリニックは口コミや評判が集客に大きな影響を与えるため、ステマに該当しない適正な広告戦略を構築することが不可欠です。
透明性のある広告手法を取り入れることで、クリニックの信頼性を向上させ、長期的な顧客の獲得につながります。法令を守りながら適切なマーケティングを実施し、安全で誠実なクリニック運営を目指しましょう。